遊びで伸ばすレジリエンス:心のしなやかさを育む保育のコツと記録法
はじめに:子供の「心のしなやかさ」を育むレジリエンスとは
日々の保育の中で、子供たちが初めてのことに挑戦したり、友達との関わりでつまずいたりする姿は珍しくありません。そのような時、すぐに気持ちを切り替えてまた立ち上がったり、失敗から学びを得て次へと進んだりする力は、子供たちの未来を豊かにする大切な非認知能力の一つです。この力を「レジリエンス」、すなわち「心の回復力」や「心のしなやかさ」と呼びます。
ベテランの先生方も、子供たちの「困った」「悔しい」といった感情にどう寄り添い、乗り越える力を育むか、日々試行錯誤されていることでしょう。この記事では、保育現場で実践しやすい遊びを通じて、子供たちのレジリエンスをどのように育み、その成長をどのように観察・記録していくかについて具体的な方法をご紹介します。特別な準備は必要ありません。いつもの遊びに少し視点を加えるだけで、子供たちの成長をより深くサポートできるはずです。
レジリエンスを育む遊びのヒント
レジリエンスは、成功体験だけでなく、失敗や困難を乗り越える経験を通じて育まれます。保育室でできる簡単な遊びや活動を通して、子供たちが自然に「心のしなやかさ」を培えるよう促しましょう。
1. 繰り返し挑戦する遊び:試行錯誤を促す
積み木やブロック、パズル、あるいは粘土遊びなどは、子供たちが自分の思い通りにならない時に、どうすれば成功するかを考え、繰り返し試す機会を与えます。
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具体的な遊びの例:
- 積み木・ブロック遊び: 高い塔を作る、複雑な形を再現するなど、目標を持って取り組む中で、倒れても諦めずに再挑戦する。
- 粘土遊び: 自分のイメージを形にするために、何度も捏ねたり、形を変えたりする。
- パズル: ピースがはまらない時に、別のピースを試したり、向きを変えたりして解決策を探す。
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保育士の関わり方:
- すぐに手伝うのではなく、「どうしたらできるかな?」「次はどんな風にしてみる?」と問いかけ、自分で考える時間を与えます。
- 失敗した時こそ、「難しいね。でも、〇〇ちゃんは諦めないで頑張っているね」と、結果ではなく過程を具体的に認め、共感する言葉をかけましょう。
2. ルールのある遊び:感情の調整と協力性を育む
鬼ごっこやだるまさんがころんだ、ボール遊びなど、ルールのある集団遊びは、勝敗や順番、役割があるため、子供たちは自分の思い通りにならない状況に直面しやすくなります。
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具体的な遊びの例:
- 鬼ごっこ・かくれんぼ: 捕まったり見つかったりした時に、悔しい気持ちを切り替え、次の遊びに移行する。
- リレー・玉入れ: チームで協力し、負けても仲間を責めずに、次の機会に活かそうとする。
- じゃんけんゲーム: 負けても感情を爆発させず、受け入れる力を養う。
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保育士の関わり方:
- ルールを守ることの大切さを伝えつつ、子供たちが感情的になった時は、一度立ち止まって「悔しい気持ち、わかるよ。でも、次は頑張ろうね」と気持ちを受け止め、穏やかに声かけをします。
- 「負けても大丈夫」「次に活かそう」というポジティブなメッセージを伝え、気持ちの切り替えをサポートします。
3. 役割のある遊び:自己肯定感と問題解決能力を養う
ごっこ遊びや劇遊びは、子供たちが自ら役割を演じ、想像力を働かせながら、予期せぬ出来事に対応する力を育みます。
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具体的な遊びの例:
- おうちごっこ・お店屋さんごっこ: 役割を演じる中で、登場人物の気持ちを想像したり、友達との間で起こる小さなトラブルを話し合いで解決したりする。
- 物語の再現遊び: 物語の展開に沿って行動する中で、自分の感情をコントロールしたり、友達の気持ちを尊重したりする。
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保育士の関わり方:
- 子供たちの主体性を尊重し、できるだけ口出しをせず見守ります。
- 困っている様子が見られたら、「どうしたのかな?」「何か困っていることはある?」と優しく問いかけ、子供自身が解決策を考えるきっかけを与えます。
- 「〇〇ちゃんが考えてくれたから、うまくいったね!」「色々な意見を出せてすごいね」と、問題解決のプロセスや創意工夫を具体的に認めます。
レジリエンスの観察と記録のポイント
レジリエンスは目に見えない能力ですが、子供たちの特定の行動や反応の中にその兆候を見つけることができます。日々の観察を通じて、子供たちの成長のサインを捉え、記録していきましょう。
1. 観察の視点
- 失敗や困難に直面した時の反応:
- すぐに諦めてしまうか、もう一度挑戦しようとするか。
- 泣き出したり癇癪を起こしたりするか、気持ちを切り替えようとするか。
- 助けを求めるか、自分で解決策を探そうとするか。
- 感情の表現と調整:
- 悔しい、悲しい、怒りなどの感情をどのように表現するか。
- 気持ちが落ち着くまでにどのくらいの時間がかかるか。
- 自分で気持ちを切り替える工夫をしているか。
- 問題解決への姿勢:
- 困った時に、複数の方法を試そうとするか。
- 友達や保育士に助けを求める際に、具体的な言葉で伝えられるか。
- 自分の意見と異なる意見が出たときに、どのように対応するか。
2. 簡単な記録方法
特別なフォーマットは必要ありません。日誌やメモ帳に、気付いたことを簡潔に記録するだけでも十分です。
- 記録例:
- 「〇〇ちゃん、積み木が崩れても『もう一回!』とすぐにやり直そうとしていた。少し不満そうな顔はしていたが、諦めずに別の積み方を試していた。」
- 「お当番活動で失敗した際、最初は俯いていたが、A先生の『大丈夫だよ、次があるよ』の声かけに『うん!』と返事。その後は笑顔でお手伝いを続けていた。」
- 「ごっこ遊びで役割が友達と重なり、一瞬険しい顔つきになったが、すぐに『じゃあ、今度は私がママになるね』と提案し、トラブルを回避していた。」
このような具体的なエピソードは、子供たちの成長を客観的に捉える上で非常に役立ちます。
3. 他の保育士との情報共有
観察記録は、他の保育士との情報共有にも繋がります。ミーティングなどで、「最近、〇〇ちゃんのこんな姿が見られました」と具体例を挙げながら話し合うことで、子供たちの多角的な理解が深まり、より一貫したサポートが可能になります。
「〇〇ちゃんの、失敗しても立ち直る力の成長は、自己肯定感が育っているサインかもしれませんね」といった形で、非認知能力の視点を取り入れると、共有の内容もより深まります。
まとめ:子供の成長を信じ、共に歩む保育の喜び
レジリエンスは、子供たちが社会に出て生きていく上で不可欠な力です。日々の遊びの中で、子供たちが少しずつ困難を乗り越え、心のしなやかさを育んでいく姿は、保育士にとって大きな喜びとなるでしょう。
大切なのは、子供たちが失敗を恐れず、安心して挑戦できる環境を整えることです。焦らず、一人ひとりのペースを見守りながら、温かい眼差しでサポートしていくことが、子供たちのレジリエンスを育む最も確実な道となります。